2015年4月6日 日刊自動車新聞掲載 マーケット最前線 予防整備提案の幅広がる
2015.04.06
ATFの安全な交換方法確立
長期間にわたり自動変速機用潤滑油(ATF)を交換していない車両のATF交換は、交換後に変速ショックや滑りなどのトラブルが発生するケースがよく知られている。
そのため多くの整備工場では、過走行で長期に無交換だった車両のATF交換には慎重なのが現状だ。ATF長期無交換車両でも、もし安全に交換できれば、整備工場にとっては予防整備の提案の幅が広がるし、顧客の満足度アップにも結び付く。D1ケミカル(園田智之社長)は、長期無交換車両のATFを安全に交換する作業方法を確立した。
同社は白煙などのエンジントラブルの解消やCVTジャダーの改善なので、全国の整備工場からトラブル修復ツールとして広く支持を得ているオイル添加剤「SOD-1」を製造している。同社が提案するATF長期無交換車両のATF交換の方法は、ATF交換前に実施する交換の可否チェックの新たな手法と交換時のSOD-1の添加だ。
摩擦力のバランス崩れ不具合表面化
同社ではATF交換後のトラブル発生要因を主に2つ指摘①ATF交換で洗い流されたAT機構内のスラッジや摩耗粉がバルブに詰まり不具合を起こすケースと②ATF交換前に既にAT内部の異常摩耗が進んでおり、ATF交換を機にATFとクラッチ摩耗剤などの摩擦力バランスが崩れて、不具合が表面化するケースとしている。
②のケースの摩擦力のバランスの崩れとは、AT内部の摩耗が進み摩耗粉などコンタミ(不純物)が混ざり摩擦係数が大きくなったATFと、一方で経年劣化で摩擦係数が小さくなったクラッチ摩耗材により、適度な摩擦力が保たれている状態が崩れることを指す。AT内部が消耗、劣化していても、前述のバランスが良ければ、正常な走行が可能な状態が保たれており、これがATF交換を機に崩れて、すべり等の不具合が表面化することが考えられるという。
こうしたATF交換後のトラブルを未然に防止するために、同社ではATF交換前にAT内部の消耗の状態を事前にチェックする作業工程を入れる必要性を指摘。新生製作所が製造する「ATFコンタミチェッカー」での事前チェックを推奨する。ATF交換後にトラブル発生の可能性が高まるAT内の異常摩耗の状態を交換前にチェックすることで、従来型のATFの色や走行距離でATF交換の可否を判断するよりも、可否判断の正確性が増すとしている。
可否判断後のATF交換の際には、SOD-1の添加を推奨。同商品は内部洗浄効果に加えて、クラッチディスク、ギア、ベアリングの耐摩耗形成による摩耗の防止、ゴム製のOリング・パッキンの硬化抑制と柔軟性回復によるシール性アップで油圧回復に効果があり、スムーズなシフトアップ・ダウンや加速性のアップ、エンジン始動性の向上が期待できるという。
愛車に長く乗っていただくために
同社ではこのほど、福岡県自動車整備振興会が県内4地区で開催した「よか商売セミナー」で、長期間ATF無交換車両のATF交換について研修を実施。ATFコンタミチェッカーを活用したATF交換方法について解説した。
各研修会場では、参加した整備工場が保有するATF長期無交換車両を用いて作業方法を実演。福岡市で開催された研修会では、ジェミニオート博多(田中滋朗社長)の在庫車で、走行距離10万キロメートル超えのATF無交換のジムニーで交換作業を行った。作業後の効果について、田中社長は「年式、走行距離からして、こんなものだとおもっていたが、加速、シフトがスムーズになり驚いた。走りがこれだけ変わるなら、お客様にもお勧めしやすい。」と話す。
自動車の保有化が長期化している現在、過走行でATF長期無交換の車両が増えていると予測される。一般的には、ATのトラブルが発生してからの修理では、大半がATの載せ替えになり高額な費用がかかるのが現状。それゆえにD1ケミカルでは「ユーザーに愛車に長くのっていただき、また信頼を獲得するために、交換の可否を正確に判断することと、トラブル症状が発生する前に予防整備をしっかり提案していくことが大切だ」と強調。トラブル予防やAT性能回復のために、同社が提案するATF交換の新たな方法が今後注目を集めていきそうだ。